2021年9月、世界で初めてビットコインを法定通貨とする国が誕生しました。
このニュースはさまざまなメディアで報道されましたが、
「正直、法定通貨にしたことしか知らない。」
「エルサルバドルなんて初めて聞いた。」
という人も多いかもしれません。
この記事ではエルサルバドルとは一体どんな国なのかということやどうしてビットコインを法定通貨にしたのかということが理解頂けると思います。
記事後半ではエルサルバドルの描く未来についても触れていますので是非最後までご覧下さい。
エルサルバドルの現状と概要
エルサルバドルは中央アメリカに位置する小国です。天然資源が乏しいことに加え、地震やハリケーンなどの災害も多く開発があまり進んでいない状態です。
エルサルバドルの基本情報
【正式名称】エルサルバドル共和国
【面積】21,040平方キロメートル(九州の約半分)
【人口】649万人
【首都】サンサルバドル
【民族】先住民族約5.6%、スペイン系白人と先住民の混血約84%、ヨーロッパ系約10%
【言語】スペイン語
【宗教】カトリック
エルサルバドルの抱える問題
エルサルバドルでは慢性的な貧困状態が続いており、国民ひとりあたりの生産量を示すGNIの数値は日本の約1/10の4,676ドルです。
国民の約30%である200万人が子供によって構成されています。しかし、貧困の影響もありそのうちの60%以上の子供達が満足に教育の受けられない状態が発生しています。また、子供のいる世帯においても約20%が安全な飲み水や食料を確保できていない状態にあり、子供の6人に1人は慢性的な栄養不良に苦しんでいると言われています。
国土が中南米に位置している影響で地震やハリケーンなどの災害も絶えず、被災と復興を繰り返しているのが現状です。
近年ではスラム街などの衛生面での問題を抱える地域でのウイルスの蔓延が懸念されており、早急に最低限の生活水準を向上させることが求められています。
(出展:Unicef Country Office Annual Report )
なぜビットコインを法定通貨化するのか
エルサルバドルは新たにビットコインを法定通貨化したことで米ドルとBTCの二重法定通貨の制度が取られています。
金融包括の達成
エルサルバドルは2001年に自国通貨であるコロンを価格変動の大きさを理由に廃止し、それから約20年にわたって米ドルを法定通貨として使用してきました。
しかし、国民の約7割にも及ぶ人々が銀行口座を保有しておらず、金融サービスが国内全体には行き渡っていないというのが現状です。
その打開策として打ち出されたのがビットコインの法定通貨化です。新たな法定通貨の採用の背景にはすでに自国通貨を廃止しているということも考えられますが、第一目標は金融包括の達成です。
金融包括とはVisaによると「個人や企業が安全かつ便利で手頃な費用の決済サービスや金融サービスを利用でき、日常的なニーズや長期的な目標のためにそれらを使用できるようにする」とあります。
簡単に説明すると、「金融サービスを誰でもつかえるようにする」ということです。
ビットコイン決済はスマートフォンにアプリをダウンロードするだけで管理することができます。
エルサルバドルではおよそ50%の国民がスマートフォンを所有しているとの統計結果もあるので、現在銀行口座を保有していないような層にもアプローチすることが可能になり、金融包括の達成を目指すことができます。
送金手数料の削減
エルサルバドルの2021年のGDP推計は256.5億ドルで、この値は日本の約1/200の数値です。その中でも、GDP比で26.2%にあたる67.2億ドルが送金によってまかなわれています。
ラテンアメリカ地域では他地域に比べて海外送金の受取額が非常に多く、同地域に200ドルを送金する際に発生する送金手数料の平均は5.5%でした。これはとても大きな数字で、そのロスを早急になくすことが課題として考えられていました。
それに対し、ビットコインの送金にかかる手数料はとても安いです。ビットコインでの決済を導入することで、従来の銀行システムを用いて送金する際に発生していた手数料のうち、約4億ドルの削減が可能であると考えられています。
それによりGDPの拡大を推進することを目的としています。
BTC法案に対するエルサルバドル国民と国際機関の反応
暗号資産という実体を持たない資産を法定通貨として採用することには好感的な反応もみられた一方、価格やセキュリティ面に関する懸念の声や懐疑的な意見も多数みられました。
エルサルバドル国民の反応
フランシスコ・ザビガディア大学の調査では国民のおよそ70%がビットコインの法定通貨化に反対しているとの結果が発表されました。BTC法案の可決後にはナジブ政権になってから初めてのデモが発生しました。参加者は数千人規模とされ、ビットコインATM の破壊などの被害がありました。
また、国営ウォレットである「Chivo」のバグが多すぎるとの批判も多くみられます。
法案施行日からウォレットアプリの普及のため国民全員を対象とし、Chivoのダウンロード者に30ドル分のビットコインを配布するという試みが行われました。その中でも配布初日にGoogleやApple製のスマートフォンではビットコインが受け取れないといった不具合の報告や、個人データの重複から700人以上もの人々がビットコインを受け取れなかったという被害報告も上がっています。
このようなBTC法案に対しての反発やビットコインに対する不信感の表れとして政府からのビットコイン配布初日には、配布された30ドル分のビットコインを換金するため、換金所には長蛇の列ができました。
政府・要人・国際機関の反応
【国際通貨基金(IMF)】:法定通貨化に伴うリスクを懸念
ビットコインなどの暗号資産を法定通貨として採用することには大きなリスクを伴います。暗号資産には安価で包括的な金融サービスの提供を実現できる可能性があり、技術的な利点を無視することはできません。しかしながら政府は自らの手で安定した金融サービスと提供するべきで、暗号資産に頼るべきではありません。
【イングランド銀行総裁】:国民のリテラシーに関する懸念
エルサルバドルの国民が自らの所有するBTCの性質を理解しているのかが心配です。ビットコインが支払いに利用されるのであれば価値が安定している必要があり、現在のボラティリティを考慮すると不向きに思えます。
【ETH考案者 ヴィタリックブテリン】:暗号資産の精神を侵害している
ビットコインの法定通貨化は暗号資産コミュニティから賞賛されるべきではありません。暗号資産コミュニティは元来自由の精神を掲げているもので、特定通貨の受け入れ義務化はその精神に反しています。
【ウォータールー大学准教授】:エルサルバドルの試みは実験的だ
エルサルバドルのビットコイン法定通貨化は他国が見守る小さな室内実験のようです。この新たな試みには世界中の人々が興味を持っているでしょう。
【エドワードスノーデン】:ビットコインの法定通貨化を賞賛
ビットコインの設計上、早期に法定通貨化をすることで利益の最大化を図ることができます。そのため先陣を切った国がいることは競合国にビットコインの取得あるいは法定通貨化をすべきであるという圧力がかかっているともいえます。後発者は躊躇したことを後悔するかもしれません。
【ジンバブエ政府】:ビットコインの法定通貨化を検討
国民の間でビットコインの需要が高まっています。ビットコイン決済は有用な手段ですが、消費者保護の観点から慎重に検討していきます。
エルサルバドルの描くビットコインシティとは
エルサルバドルではビットコインシティと呼ばれる近代都市の建設を計画しています。同計画を通して世界の金融センターになることを目論んでいます。
ブケレ大統領はビットコインシティの開発をカナダのブロックチェーンテクノロジー企業Blockstreamとエルサルバドル政府の協同で行うと発表しました。資金調達のため同社が手がけるliquidネットワーク上でビットコインを裏付けとした10億ドル相当の10年債を利率6.5%で発行します。
調達した資金は半分をエネルギー確保やビットコインマイニングのためのインフラ整備に充て、残りの半分はビットコインの新規購入に使うと発表しました。
その際に購入したビットコインを徐々に売却し配当の原資にしようという考えです。
ビットコインシティの電力は火山を用いた地熱発電を利用する方針で、環境保全に努める姿勢を取っています。
税制面での優遇
ビットコインシティ内では所得税・キャピタルゲイン税・給与税・固定資産税の免除が予定されており、租税回避地としての位置づけを目指しています。
ブケレ大統領は発表イベント内で、税金は付加価値税の10%のみでその他の課税は発生しないことを強調しました。
税収の半分はビットコイン債の配当の補填に充て、残りの半分はゴミ収集などのサービスに充てるとしています。
マイニング企業の誘致
エルサルバドルは豊富な火山の地熱発電を利用し、100%再生可能エネルギーでのマイニングを計画しています。これは多方面から懸念の声が寄せられている排気ガスに関する問題に配慮したもので、世界中でさまざまな取り組みが行われています。
マイニングは多量の電力消費や排気ガスが問題視され、中国などの国ではマイニングの禁止が発表されています。そのためエルサルバドルでのマイニングは世界中のマイナーにとっての新たな選択肢になるかもしれません。
エルサルバドルのBTC購入時期と購入量
エルサルバドル政府は過去に6回のビットコインの購入を報告しています。
(trading viewより引用)
購入日 |
購入単価(円) |
購入枚数(BTC) |
総購入枚数(BTC) |
|
① |
9月7日 |
5,680,000 |
200 |
200 |
② |
9月7日 |
5,770,000 |
200 |
400 |
③ |
9月8日 |
5,200,000 |
150 |
550 |
④ |
9月20日 |
5,000,000 |
150 |
700 |
⑤ |
10月28日 |
6,700,000 |
420 |
1,120 |
⑥ |
11月26日 |
6,150,000 |
100 |
1,220 |
エルサルバドル政府のビットコインの購入枚数は1,220枚、推定平均購入価格は594万円、推定含み益は6.8億円となっています。
購入のタイミングについてはチャート上の購入ポイントから分かる通り、しっかりと押し目で購入できている印象です。
同政府のBTC購入発表による市場への影響はあまり大きくありません。
まとめ
エルサルバドルはビットコインを法定通貨として定めましたが、各国の機関や要人からは懐疑的な意見が多くよせられています。
実体のないものに資産的な価値を見いだすことはできるのか、あるいは仮想通貨自体がほとんど価値のない詐欺であるといったような意見も散見されますが、法定通貨として定めるにはボラティリティが大きすぎるのではないかという意見が非常に多いです。
確かに現状のビットコインの値動きは他のドルやユーロ等の基軸通貨と比較すると明らかにボラティリティが大きいです。その一方でビットコインを含む仮想通貨領域の決済手段としての有用性に注目すると、それは非常に高く、今後の発展余地を多く残しているように感じられます。
日本やアメリカなどの安定して充実した金融サービスの提供ができている国では、仮想通貨の決済手段としての受け入れには多くの時間を有するかもしれません。しかし、エルサルバドルのように未だに多くの貧困層を残している国では今後さまざまな導入例が出てくる可能性は十分に考えられます。