※このコンテンツには広告が含まれている場合があります。
ブロックチェーンやビットコインについて調べると必ず出てくる「ナカモトサトシ」という人物。その名前はSatoshiという単位にもなるほどビットコインに大きな影響を与えました。ちなみに1Satoshi=0.000000001BTCで、現在の価値で約0.02円です。
では、そのナカモトサトシはビットコインとどんな関係があるのでしょうか?
ナカモトサトシは2008年11月、ネット上で一つの論文を発表しました。
この論文については後述しますが、ナカモトサトシはこの論文の中でブロックチェーンという画期的な技術とそれを利用したビットコインという暗号資産(仮想通貨)を提唱しました。その後2009年にはビットコインのソフトウェアを発表し、ナカモトサトシの構想に賛同する数人の技術者とともにビットコインのシステムを作り上げていきました。
では、そのナカモトサトシの正体は誰なのでしょうか?
実は、その身元については様々な説が上がっているものの、はっきりとした事は分かっていません。他の技術者とビットコインを共同で開発していた時、ナカモトサトシは他の技術者と対面で会うことはなく、常に電子メールでやり取りをしていました。そのため、誰も正体を知らないのです。
ナカモトサトシが男性なのか女性なのか、そもそも「ナカモトサトシ」が一個人の名前なのかすらも確定しておらず、技術者集団の名前ではないかという説もあります。なので、ここでは巷で言われているいくつかの説を見ていきましょう。
まず名前から想像できる通り日本人なのではないかという説があります。漢字は「中本哲史」や「中本智」、「中本聡」など様々な説がありますが、どれも根拠に乏しいのが実情です。
では、日本人だとすれば誰でしょうか?
京都大学の望月教授は2012年とある数学に関する論文をネット上にあげ、それが数学上とても重要な論文だったことから世界的に注目を集めた数学者です。
2013年5月17日、アメリカで情報工学の権威と言われるテッド・ネルソン氏がナカモトサトシは京大の望月教授であると主張する動画を動画投稿サイトYoutubeに公開し、さらに望月教授のネットに論文を掲載するという手法がビットコインの論文と同じだったことから、ナカモトサトシはこの人ではないかと言われました。また、ビットコインの論文は全て英語で書かれていましたが、望月教授はアメリカで育っており英語に堪能であることもこの説を主張する根拠になりました。
しかし、望月教授本人は否定しています。
そもそも、暗号資産(仮想通貨)事業を手がけるSBIホールディングスの北尾会長は、ナカモトサトシという人物と実際に会って暗号資産(仮想通貨)の未来について議論をしたと話しており、その際に「彼は日本人ではない」と語っています。そのためサトシナカモトは実は日本人ではないのかもしれません。
自ら自分がナカモトサトシであると主張した日本人はいない一方で、そう主張したオーストラリア人はいます。
今からおよそ5年前の2015年10月、アメリカで開催されたビットコイン投資家カンファレンスに、当時ほとんど名前が知られていなかったオーストラリア人の実業家、クレイグ・スティーブン・ライト氏が登場しました。彼はこの時自らのことを「ナカモトサトシ」であるとは名乗っていませんが、この時の自己紹介の様子が歯切れが悪く何かを言いたげな様子であったことから、「クレイグ・スティーブン・ライトがナカモトサトシではないだろうか?」という噂が立ちました。
そして本人は何も発言しないまま、ついに12月にWIRED USが「Bitcoin's Creator Satoshi Nakamoto Is Probably This Unknown Australian Genius」(「ビットコインの創設者はおそらくこの無名のオーストラリア人の天才だ」)と題した記事を掲載し、「証拠」として以下の3つのことを報じました。
・ビットコインの論文が発表される前の2008年8月、暗号通貨に関する論文を発表するつもりであると自身のブログで語っている。
・2008年11月、ブログの読者のうち彼と連絡を取りたい人はとある公開鍵を用いて暗号化してメッセージを送って欲しいと自身のブログに投稿していた。そして、その公開鍵に紐づけられていたメールアドレスが[email protected]で、ナカモトがビットコインの論文を発表する時に使用していた[email protected]に非常に似ている。
・2009年1月10日、自身のブログに「ビットコインのベータ版が明日開始されます。これ(=ビットコイン)は分散化されたものであり、成功するまで我々は続けます」と投稿している。実際にベータ版が始まったのは1月9日であるが、オーストラリア東部との時差を考慮すると投稿はベータ版開始前ということになる。
これらの証拠の他に過去のメールなども挙げています。
この記事によってナカモトサトシの正体を知ろうとする人達はにわかに活気付きました。しかし、しばらくしてメールの内容は容易に改竄できることからライト氏がナカモトサトシである可能性は無いと言われるようになりました。
しかしWIREDの記事から約5ヶ月後の5月2日、またもやライト氏がナカモトサトシであるという報道が新証拠とともになされます。しかも今回はBBCとイギリスの経済誌「Economist」、GQという権威ある出版社が発信源ということで、瞬く間に大騒動となりました。
BBCの当時の記事によると、ライト氏は技術的証拠を提出し、ビットコインコミュニティのメンバーや開発チームもそれを確認したと言っています。また、それだけでは証拠が足りないとして、ナカモトサトシがBBC・Economist・GQと他数人の関係者の前で、ナカモトサトシ本人しか知り得ないはずの暗号キーを使って改竄できないブロックチェーンに電子署名してみせたそうです。
しかし、同じ報道をしたEconomistは当時の記事の中で「これからビットコインコミュニティで議論されるであろう疑問がいくつかある」としており、クレイグ・スティーブン・ライト氏がナカモトサトシであると断定されたわけではありません。
さらに、報道の直後から様々な疑問の声が上がったことに対してライト氏は「完全に証明してみせる」としていましたが、その後一転して自身のブログに「I'm sorry」と題した文章を載せ、報道直後からの自身に対する誹謗中傷を理由に今後一切このことについて説明を行わないことを説明しました。
2014年3月6日、「Newsweek」誌が「THE FACE BEHIND BITCOIN」と題した記事を掲載し、ナカモトサトシがアメリカ合衆国カリフォルニア州に住む日系アメリカ人のドリアン・プレンティス・サトシ・ナカモト氏であると報道しました。
Newsweek誌によればこの人物が「ナカモトサトシ」と同姓同名であることやこの人物の過去の経歴から、この人物が「ナカモトサトシ」であると考えたようです。
しかし、その約2週間後、3月17日付でドリアン・プレンティス・サトシ・ナカモト氏が弁護士を通じてこの報道を完全に否定する文書を公開したため、現在ではこの説を支持する人はほとんどいません。
ナカモトサトシが日系アメリカ人のドリアン・プレンティス・サトシ・ナカモト氏であると報道され本人に否定されてから1ヶ月後、今度は「THE WALL STREET JOURNAL」誌が「ビットコイン考案者、ニック・サボ氏が有力ー英大学が著作分析」と題した記事を掲載。
この人がナカモトサトシであるという説では、過去にビットコインのように非中央集権的なデジタル通貨の開発に携わったことやナカモトサトシと文章の書き方などが似ていること、さらにはエッセイでロナルド・レーガン元アメリカ合衆国大統領の言葉を引用するなど、経済における考え方の面でもナカモトサトシと似ている(ロナルド・レーガンは経済的自由主義に基づくレーガノミクスを行った)ことが理由として挙げらますが、やはりこの説も本人によって否定されています。
2011年10月「THE NEW YORKER」誌はビットコインに関する記事の中で、ナカモトサトシが完璧な英語を使い、それもアメリカ英語ではなくイギリス英語を使っていることや彼の投稿がイギリスの一般的な営業時間の後であることが多いことから、ナカモトサトシがイギリス系の人物ではないかと考え、当時ダブリン大学トリニティカレッジの大学院生であったマイケル・クリアー氏ではないかと推測しました。
同記事によると、クリアーは学部生時代の2008年にトリニティカレッジではコンピューターサイエンスの分野でトップに立ち、翌年通貨取引のソフトウェア開発のためにアイルランドの銀行に採用され、さらにP2Pの技術に関する学術論文も共同執筆しています。つまり、経済・暗号化手法・P2Pネットワークの全てに精通しているということです。
また、10才の頃から色々な言語でのプログラミングを行い、ビットコインに使われているC++言語も使いこなしているそうです。
しかしTHE NEW YORKERに対してマイケル・クリアー氏は否定し、逆に「僕はサトシが誰なのか特定できると思う」と言ったそうです。
上述のTHE NEW YORKERの記事によると、マイケル・クリアー氏がTHE NEW YORKERに語ったナカモトサトシの正体はフィンランド人のVili Lehdonvirta氏でした。Lehconvirta氏は当時31才でヘルシンキ情報技術研究所の研究者で、かつてはテレビゲームのプログラマー、今は暗号資産(仮想通貨)の研究をしています。
しかし、THE NEW YORKERの取材に対して同氏はやはり強く否定しています。
これまで挙げた説以外にも、一番最初のビットコイン取引でビットコインを受け取ったハル・フィニー氏や、2014年に経営破綻した当時世界最大手のビットコイン取引所「MTGOX」(マウントゴックス)の創業者でリップルやステラの開発にも関わっているジェド・マケーレブ氏などもナカモトサトシの正体として挙げられることがありますが、決定的な証拠が無いのが現状です。
もっとも、ハル・フィニー氏は既に死去しているのでもしナカモトサトシが彼であった場合証拠が揃うのはなかなか難しいかもしれません。
ビットコインという革命的な貨幣システムを発明し、なおかつその正体が未だに明らかにならないことから「ナカモトサトシは未来人ではないのか?」という説までインターネット上では見られますが、当然のことながらこれは証拠が全くありません。
ただ、ロマンはある話ですね!
結論として、ナカモトサトシの正体は未だはっきりしていません。
そもそもナカモトサトシである技術的な証拠を提出してもライト氏のように「その技術的な証拠が偽物ではないか?」と疑われれば証明は難しいですし、ビットコインの非中央集権的制度を体現するためにナカモトサトシは敢えて名乗り出ないのだという意見もあります。
これからも正体が明らかにならないのか、それとも強力な証拠を提出する人物が現れるのか、注目していきたいですね。
さて、これまでナカモトサトシの正体について見てきましたが、そのナカモトサトシが2008年に公開したという論文はどのようなものなのでしょうか?
元の論文は2008年、暗号理論に関するメーリングリスト内で公開されたわずか9ページのものです。しかし、1ページ目のイントロダクションを読むだけでもナカモトサトシの思想やブロックチェーンを利用した暗号資産(仮想通貨)を考えた目的が見えてきます。
また、2ページ目以降はどのようにしてビットコインのシステムを成り立たせるかという技術的な話になっています。
では、その論文はどこで読めるのでしょうか?
元々のナカモトサトシの論文は英語で書かれていますが、実は日本語訳されたものがcoincheckのこちらのページで公開されており、自由に読むことができます。
原文に挑戦してみたい方はこちらからどうぞ。
ノーベル賞には物理学賞、化学賞、生理学賞、文学賞、平和賞、経済学賞と6つの賞がありますが、1901年に始まって以来(経済学賞のみ1968年設立)唯一日本人が受賞したことがないのがノーベル経済学賞です。
2015年、このノーベル経済学賞になんとナカモトサトシが推薦されました。しかし、上で詳しく述べている通りナカモトサトシの正体は明らかになっておらず、偽名である可能性も高いと言われています。そんなナカモトサトシを推薦したのはカリフォルニア大学ロサンゼルス校でファイナンスを専門に研究しているBhagwan Chowdhry教授です。
2015年11月6日付でハフィントンポストに「I (Shall Happily) Accept the 2016 Nobel Prize in Economics on Behalf of Satoshi Nakamoto」(私は(喜んで)2016年のノーベル経済学賞をナカモトサトシの代理として受け取る)と題して寄稿し、その中で「私は誰のアイディアが21世紀において破壊的な影響力をもつのか考え始めた。そしてビットコインの開発者の名前が突然私の頭の中に浮かび、それ以降その名前を頭の中から消すことはできなかった。ナカモトサトシだ。」と述べました。
なお、Chowdhry教授は2016年のノーベル賞の候補者選考委員会に招待されており、このような立場にある人間がこのような発言をすることからもビットコインが経済に及ぼす影響の大きさが分かりますね。
しかし、実際にナカモトサトシがノーベル賞を受賞する可能性はあるのでしょうか?
結論から言えば、可能性はゼロではありません。しかし、受賞するまでにはいくつかの障壁があります。
まず、ノーベル賞を受賞するには何かしら学術的功績を残す必要があり、通常それは学術的出版物に掲載されます。しかしナカモトサトシはネット上に論文を掲載しただけであり、学術的功績として認められるのかを疑問視する意見があるようです。
さらに、ナカモトサトシは身元が分かっていないので、正体不明の人物(もしくはグループ)に授与することを疑問視する意見もあるそうです。現に、ノーベル賞の報道担当役員であるHans Reuterskiöldが「賞が正体不明の人物に授与されることはない」と語ったという報道もあります。
ナカモトサトシの考えたビットコインが世界経済に非常に大きな、不可逆的な影響を与えたことは間違いなので、これらの問題が解決されればナカモトサトシがノーベル経済学賞を受賞する日がくるかもしれませんね。
以上、ナカモトサトシの正体や功績について見てきました。
正直なところ、この人物については分からないことが多く、またナカモトサトシのことを知らなくても暗号資産(仮想通貨)の取引はできます。
しかし、ビットコインという偉大な発明をしたナカモトサトシに敬意を表して暇な時に論文を日本語で読んで見てはいかがでしょうか?