2025年のビットコイン市場を振り返ると、「政治の思惑、制度の進化、経済の逆風が価格を揺さぶり続けた年」だったと言えそうです。
史上最高値12万6000ドル。
華々しい数字の裏側では、市場の姿が根本から変わっていきました。国が戦略的に保有する資産として認められ、機関投資家が本格参入。ビットコインは「誰でも買える投機対象」から「プロが管理する金融商品」へと変貌していった可能性があります。
特に2025年を特徴づけたのは、トランプ関税による3度の大きなショックでした。3月のカナダ・メキシコ25%関税でビットコインは24時間で約9%急落。4月の包括関税では週ベースで約10%下落。そして10月の対中100%関税発言では約7%急落し、24時間の清算額が史上最大の約2.888兆円を記録しました。
加えて、8月のインフレ懸念、10月1日から43日間続いた政府閉鎖、年末の強い経済指標による利下げ期待の消滅と、相次ぐ逆風が価格を抑え込みました。
一方で、3月の戦略備蓄創設、7月のGENIUS法成立が制度の枠組みを整え、前年11月に始まったETFオプション市場は未決済残高を2倍以上に拡大。12月26日には236億ドルという史上最大規模のオプション満期を迎えました。
本記事では、激動の2025年を「何が起きたのか」「市場はどう変わったのか」「2026年はどうなりそうか」という視点で振り返ります。
2025年のビットコイン市場を時系列で振り返る

1月:トランプ大統領就任
トランプ大統領の再就任で規制緩和への期待が広がり、現物ETFへの資金流入が加速。1月単月での流入額が過去最高を記録しました。
2月:Bybitハッキング事件
2月21日頃、約15億ドル相当のETHが盗まれる史上最大級のハッキングが発生。
FBIの調査により北朝鮮ハッカー集団の関与が示唆され、取引所残高が前月比8%減少。一時的な売り圧力で価格は調整しました。
3月:関税ショックとビットコイン戦略備蓄の創設

トランプ大統領の発言により、関税の観測が強まった2月下旬からリスク回避が先行し、3月3日〜4日にかけて関税実施が現実味を帯びると下落が加速した。
ただ3月6日の「米国戦略ビットコイン備蓄」創設発表で長期保有の姿勢が示され、センチメントが改善して底打ち反発のきっかけになりました。
4月:包括的関税と90日停止制度整備への期待、

4月2日、トランプ大統領は「Liberation Day」演説で包括的関税を発表。
全輸入品に一律10%、中国には合計54%など大幅な関税強化を表明し、ビットコインは約10%急落。 しかし4月9日、75カ国以上について関税を90日間停止すると発表され、市場センチメントは改善しました。
7月:GENIUS法成立
ステーブルコイン規制法「GENIUS法」がトランプ大統領の署名により正式に成立。銀行やノンバンクによるステーブルコイン発行の法的枠組みが明確化され、機関投資家が参入しやすい環境が整いました。
一方で、ETFオプション市場は着実に拡大を続け、先物・オプションの未決済残高が順調に増加していきました。
8月:PPIショック、インフレ率上昇でブルトラップ
9月の利下げ観測を背景にビットコインは新高値を記録。しかし翌14日発表の生産者物価指数(PPI)が7月の予想を大きく上回る結果に。「インフレは終わった」という悲観が広がりビットコインは124,000ドルから24時間以内に118,000ドルを割り込む急落。この「ブルトラップ(強気の罠)」が多くのトレーダーを高値掴みの状態に残し、8月の残り期間は弱気なトーンとなりました。
10月:FOMCの利下げ発表から史上最高値更新、そして政府閉鎖と対中関税発言による史上最大の清算

史上最高値12万6272ドルを更新。しかし10月1日には連邦政府が閉鎖し、10月11日にはトランプ大統領が「中国に100%追加関税」と突如発表。ビットコインは急落し、24時間の清算額は史上最大の約2.888兆円を記録しました。
11月:43日間の政府閉鎖解除も強い経済指標で急落
政府閉鎖が解除されましたが、その後発表された経済指標が予想を大きく上回る強さを示しました。これにより「FRBは当面利下げしない」という見方が広がりリスク回避の動きが加速。
12月:史上最大のオプション満期を控えたレンジ相場
236億ドルという史上最大規模のオプション満期を控え、価格は87,000〜88,000ドルで推移。満期通過後の2026年1月の動きに注目が集まっています。
2025年を象徴する2つのテーマ
2025年のビットコイン市場を理解する上で、避けて通れない2つの構造変化があります。一つは「国家による戦略資産化」、もう一つは「機関投資家の本格参入」です。
この2つのテーマは、単なる一時的なトレンドではなく、ビットコインという資産の性質そのものを変えてしまった可能性があります。価格の動き方、参加者の構成、そして市場を動かす要因。すべてが2024年以前とは違うものになりました。
ここでは、この2つの変化が実際に市場にどんな影響を与えたのかを深掘りしていきます。
国家戦略資産としての認定。底値を固めた「戦略備蓄」
2025年3月6日、「米国戦略ビットコイン備蓄」が創設されました。押収ビットコインを永久保有し、今後5年で最大100万BTCを取得する方針が示されました。
しかし重要だったのは法律そのものではなく、市場参加者の心理に与えた影響でした。大統領令発表後、155日以上保有する「長期保有者」のビットコインが前月比4.2%増加し過去最高水準に。注目すべきは、この変化が一時的なものではなく、その後も継続したという点です。
Bitcoin LTH Supply correlation price

このグラフは、長期保有者の供給量(オレンジの線)とビットコイン価格(青い線)を示しています。
2025年に入って以降、長期保有者の供給量は大きく減少することなく、高水準で推移していることが確認できます。
10月に高値圏を形成した後、11月には調整局面を迎えたものの、価格の下落は過去の強気相場と比べて限定的でした。
過去のサイクルでは、最高値から50〜80%規模の下落が珍しくありませんでしたが、2025年はおおむね30%台の調整にとどまっています。
こうした値動きの背景として、国家戦略資産としての位置づけが意識され始めたことによる長期保有志向の高まりや、ETFを通じた恒常的な需要の存在、さらには機関投資家の参入による市場構造の変化など、複数の要因が複合的に作用した可能性が考えられます。
その結果、短期的な価格調整が起きた局面でも、長期保有者による大規模な売却は限定的となり、相場の下支えとして機能した可能性があります。
Bitcoin Illiquid Supply

このグラフは、ビットコイン価格(白線)と、流動性の低い供給量(オレンジの線)を示しています。
「流動性が低い」とは、ウォレットからほとんど送金されず、売られる可能性が極めて低い状態を指します。具体的には、何年も動いていないウォレットや、長期保有を目的としたコールドウォレットなどです。
価格調整局面でも、この水準は大きく崩れませんでした。短期的な価格変動があっても、長期保有を前提とした供給がすぐに売りへ転じなかったということです。
結果として2025年の相場は、急落時にも過去サイクルのような連鎖的な投げ売りが起きにくく、需給面では下値が意識されやすい構造だったと考えられます。
機関投資家の本格参入。ETFオプションがもたらした構造変化
2024年11月に始まったETFオプション取引が2025年に急拡大。7月のGENIUS法成立も機関投資家の参入を後押ししました。
大口投資家はオプションで「リスクヘッジしながら収益を得る」高度な戦略を駆使するようになり、ビットコインは「個人が夢を賭ける場所」から「プロが数字を管理する場所」へと変わった可能性があります。
2025年、ETF経由の純流入額は200億ドル超で、半減期後の新規発行量を上回りました。構造的な供給不足を示唆します。特に5月以降、個人の利益確定売りが急増したにもかかわらず価格が下落しませんでした。
Bitcoin ETF inflows

このグラフは、ビットコインの実現損益と価格(白線)の推移を示しています。実現利益とは、投資家が実際に売却して確定した利益のこと。通常、これが急増すると「利益確定売りが集中=天井サイン」と解釈され、その後大きな調整が起きるのが一般的でした。
2025年を見ると、5月以降に実現利益が断続的に大きく発生しており、相当量の利益確定売りが出ていました。
しかし価格はすぐに崩れませんでした。
同時期の現物ETFフローを見ると、利益確定が進む局面でもETFを通じた資金流入が断続的に確認されており、売り圧力を吸収していた可能性が示唆されます。
つまり2025年の市場では「個人が売っても、ETFが買う」という新しい構造が生まれ、従来の「利益確定=天井」という図式が通用しなくなっていたと考えられます。
Bitcoin Open Interes

このグラフは、ビットコインの未決済建玉(青い線)と価格の推移を示しています。
夏から秋にかけては、価格上昇とともに未決済建玉も増加し、400億ドル超の高水準で推移しました。一方、10月以降の下落局面では、価格の下落に先行・連動する形で建玉が急減しており、レバレッジの解消が進んだ局面であったことが分かります。
注目すべき点は、建玉が高水準だった局面でも、過去の強気相場で見られたような急激な崩壊的清算が限定的だったことです。これは、短期的な投機ポジションだけでなく、ヘッジや中長期戦略を目的とした建玉が一定割合を占めていた可能性を示唆します。
このような動きは、ETFの普及やデリバティブ市場の成熟を背景に、
「方向性に賭ける個人主導の市場」から「リスク管理を前提とした機関投資家主導の市場」へと構造が変化しつつある兆候と捉えることもできます。
2025年はビットコインにとってどんな年だったのか
ビットコインには4年周期の「半減期サイクル」があり、過去は半減期の翌年に爆発的な強気相場が到来していました。しかし2025年はこのパターンから外れました。
国や企業による戦略備蓄、ETF市場の成熟、GENIUS法が価格を下支えする一方、関税ショック、インフレ懸念、政府閉鎖が価格を抑え込みました。結果として価格は史上最高値を更新しましたが、その後の調整も急激。「制度は底を固め、経済環境は天井を抑える」という相反する力がせめぎ合った年でした。
ただし過去と決定的に異なったのは下落の浅さです。過去は最高値から50〜80%の暴落を見せていましたが、今回は約30%台に留まりました。長期保有者の急増、流動性の低い供給が78%超、ETF流入が新規発行量を上回るなど、「急落時にも底が抜けにくい」構造への変化が数字に表れています。
こうした変化の背景には、ビットコインが「既存システムへの反発から生まれた実験」から「既存システムの一部」へと移行しつつある象徴的な年でした。これは2009年にサトシ・ナカモトが描いた理想とは違う姿かもしれません。しかし見方を変えれば、制度化こそが、ビットコインを「一時の流行ではなく、長く生き残る資産」へと変えつつあるとも言えそうです。
その変化を良しとするか、残念に思うかは人それぞれ。ただ一つ確かなのは、ビットコインを取り巻く環境は、もう後戻りできないところまで来ているということです。