2021年10月現在、負債総額1兆9665億元(約33兆4000億円)を抱え、経営破綻が危惧されている大手不動産会社「中国恒大集団」
抱える負債総額は中国の国内総生産(GDP)におけるおよそ2%相当とされており、もし破綻するとなれば市場に及ぼす影響は計り知れません。

恒大集団のデフォルトが経済に与える影響は一体どれほどなのか?
そして、2008年9月に世界経済を奈落の底まで陥れた金融危機「リーマンショック」が、なぜ今になって再び注目を集めているのか?

本レポートでは、リーマンショックの事例を引き合いに、恒大集団のデフォルトが市場に及ぼす影響を徹底考察していきます。

また、続く第二弾の記事「恒大集団デフォルトによる仮想通貨暴落に備えよ」では、

恒大集団デフォルトによって起こるビットコイン相場の値動きなどを徹底考察しているので、ぜひご覧になってください。

概要と結論

そもそも「中国恒大集団」とは?

中国の大手不動産開発会社

一連の騒動を把握するため、まずは中国恒大集団が一体どのような会社なのかを振り返りましょう。

恒大集団(こうだいしゅうだん:チャイナ・エバーグランデ・グループ)は、中国の実業家である許家印(キョ・カイン)氏によって1996年に設立された不動産会社です。

[出典:Trading View]

2009年に香港証券取引所へ上場。2016年には不動産販売額で国内トップを記録し、一時は時価総額5兆円にまで到達した屈指の大企業になります。

同時期には事業の拡大と多角化を図り、電気自動車(EV)事業などにも進出。2021年には時価総額で米フォード社を上回りました。自社株や不動産を担保に多額の借入を繰り返し、積極的に収益を拡大させていきます。

政府による規制強化が原因か

そんな中国不動産業界を代表する恒大集団ですが、負債総額は約33兆4000億円を抱え現在デフォルト(債務不履行)を危惧する声があがっています。

今年10月23日、29日には、ドル建て車載の利息支払いを、資金不足などを理由に延期しています。

2021年6月末の負債・純資産合計 40.4兆円
流動負債 26.7兆円
仕入債務 16.2兆円
短期有利子負債 4.1兆円
その他流動負債 6.5兆円
固定負債 6.7兆円
長期有利子負債 5.6兆円
その他固定負債 1.1兆円
純資産 7.0兆円

「一体なぜこのような自体に陥ってしまったのでしょうか?」

恒大集団が債務不履行の危機に陥っている一番の理由は、政府による不動産融資規制だと言われています。

これまで中国不動産業界は、経済成長の担い手として政府からの支援を受けてきました。
しかし近年、住宅価格の高騰により、政府は融資抑制を決定。恒大集団は新たな借入が困難となり、経営が悪化してしまいます。

「リーマンショック」を振り返る

証券会社破綻がもたらした史上最大の金融危機

恒大集団が中国版リーマンショックとなるか議論をする前に、まずはリーマンショックの概要や原因などを復習していきましょう。

リーマンショックとは、2008年9月米大手証券会社リーマン・ブラザーズの破綻によって起こった世界的な金融危機を指します。

新自由主義的な資本主義が経済システムとして採用されて以降、人類は何度かの世界的な金融危機に直面してきました。
その中でも「リーマンショック」は最も深刻な金融危機とされており、今回の中国不動産騒動でも度々引き合いに出されています。

当時のリーマンブラザーズが、破綻後にかかえていた負債総額は約6000億ドル(約64兆円)と言われており、ダウ平均株価は2007年の最高値から2008年11月初めまでに45%下落。リーマンショック後の株価回復までには約5年を要しました

日経平均株価は半年で約1万2千円から6,000円台まで下落。1万5千件の企業がリーマンショックにより倒産したと言われています。

住宅価格下落によるサブプライムローン崩壊

サブプライムローンとは、ローン会社が低所得者に向けて貸し出す住宅ローンを指しており、リーマンショックが起きた主な原因の一つとされています。

当時のアメリカでは、不動産価格が永遠に上がり続けており、もしローンが返せなくなっても住宅を売れば良いと言うのが共通の知識となっていました。
しかし、米国住宅価格が2006年中盤にピークを迎えると、住宅の譲渡を持ってしてもローンを返済し切れない状態になってしまいました。

すると、サブプライムローンが組み込まれた不動産担保証券(モーゲージ債:MBS)の価格が暴落。当時人気の金融商品であったMBSを保有する多くの金融機関や投資ファンドが多額の損失を計上しました。

複雑になりすぎた金融商品

これらのMBSが多くの金融機関や投資家に好まれていたのは、高い格付けによる影響が大きいです。
通常、MBSは信用度の低い債権とされていましたが、複雑な証券化(CDO)などにより、リスクが把握しづらくなっていました。

2007年から2008年の間に住宅価格が下落し始め、市場が冷静さを取り戻すと、格付け機関は1兆9千億ドル相当のMBSにおける信用格付けを引き下げました。
こうした不正確な信用格付けによる債権の証券化が明らかになり、不動産市場の熱は急激に冷めていきます。

米国低金利による融資条件の緩和

居住用不動産に関わる投機的な借入増加も、サブプライムローン崩壊の原因とされています。

2006年には、住宅購入のうち22%が投資目的、14%は別荘として購入されました。これは、米国低金利に伴い、銀行がリスキーな融資オプションを打ち出し続けていたことが要因と言えます。
それに加え、当時の住宅購入者の43%が頭金を支払わずに住宅ローンを組めてしまう状況であったと言われています。

次のセクションからは、恒大集団とリーマンショックの共通点と相違点を照らし合わせ、なぜ今回の騒動が中国版リーマンショックと呼ばれているのかを考察していきます。

【徹底比較】恒大集団vsリーマンショック

リーマン・ショック 恒大集団
負債総額 約64兆円 約33兆円
債務対象者 世界中の低所得者 国内投資家&金融機関
政府による救済 一切なし 現状なし

共通点①:不動産への過度な投機

リーマンショックが今回の恒大集団騒動で度々取り上げられる理由としては、両者とも破綻の兆候として不動産バブルの影響が見られるためです。

2021年に中国主要都市の住宅価格は50%〜60%ほど上昇しており、これはリーマンショックが起こるまでの2000年代米国不動産価格推移と共通しています。
不動産価格の上昇による過度な投機がもたらした金融危機という点で、両者は共通しているといえるでしょう。

共通点②:政府による救済

もう一つの共通点としては、政府による救済の有無です。

2008年のリーマンショック時には、金融緩和がおこなわれたものの、政府による本格的な救済はなされず、「Too Big to Fail(大きすぎて潰せない)」の概念を覆したはじめての例となりました。

中国政府による恒大集団への救済は未だ不透明な状態ですが、大方の予想で救済無しとの見方がされています。それは、不動産規制による小規模のデフォルトはすでにいくつか発生しており、恒大集団だけ救うというのはモラルハザードに反するという理由のためです。
現時点で、中国政府が本格的な救済措置も発表されていなことから、政府による救済が無い点は共通していると言えるでしょう。

相違点①:債務対象者

両者の相違点としてまず挙げられるのは、債務者の対象です。

リーマン・ショック時には、原因となったモーゲージ債を保有していた多くは低所得者で、複雑に組成された金融商品の影響により、誰にも把握出来ないほど負債者が世界中に広がっていました。
恒大集団の場合、債務の大半は建設業者への買掛金で、銀行ローンも100%中国内の政府権銀行から借り入れています。つまり、負債者の把握しやすさが両者では大きく異なります。

つまり、公開の恒大集団騒動はリーマンショックと比べ、負債整理が単純であるため、政府による迅速な介入が可能です。

【結論】恒大集団は中国版リーマンショックとなるのか?

恒大集団とリーマンショックは全くの別物

各紙で恒大集団とリーマンショックの比較が引き合いに出されているのは、営業戦略的な側面が強いと言えるでしょう。

これまで述べてきたように、リーマンショックの原因ははリーマン・ブラザーズの破綻だけではなく、複雑に絡み合った度の過ぎた金融商品などによるものが強く、恒大集団とでは債務者も大きく異ります。
共通しているのは、不動産関連や政府からの措置というくらいで、規模や根本的な原因がそもそも異なっています。

また、救済措置の行方は未だ不透明なものの、リスクを国が管理できるという観点から、恒大集団デフォルトがリーマン・ショックのような大暴落を引き起こす可能性は低いと言えるでしょう。

恒大集団問題は10月中にも決着か

恒大集団が9月中に延期した債務の9月23日と29日からの30日間、つまり10月中には結論が出ます

そこで注目されるのは、やはり中国政府が救済措置を行うのか否かという点です。

今後、中国では2022年の北京冬季五輪、そして5年に1度の共産党大会など、習近平国家主席にとって重要なイベントが続きます。習近平国家主席は共産党大会で終身国家主席となることを狙っており、この時期での金融危機はなにより避けたいはずです。

習近平国家主席は、国家の経済方針として掲げている「共同富裕」を実現すべく、最終的には政府が介入し、子会社や株の一部を売却させたりしながらソフトランディングを図るのではないでしょうか。

 

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